女囚さんシャイセと叫べ4分間
《4分間のピアニスト》(原題:Vier Minuten)見てきました。
非常に困難な状況にある芸術家どうしがなんとかして心を通わせようとする、その困難さを描いて秀逸でした。
もと「ピアノの天才少女」ながら、ステージ養父のもとを飛び出してぐれてしまい、恋人の犯罪をかばって収監中の主人公。ひたすらに心を閉ざして、自分をいじめたやつは半殺し(それが、陰湿ないじめを繰り返すトルコ系らしき牢名主や、小市民な看守であっても、ご機嫌を伺うなんてことはいっさいしない)、でもたたきこまれたピアノだけは忘れない。
ナチス・ドイツ時代にレズビアンの共産主義者であることを隠して国防軍病院に看護婦として勤務していた往年の名ピアニスト(フルトヴェングラーに認められたという設定)。米軍の空爆で国防軍病院が破壊された際に、仲間に売られて収監中の恋人を見殺しにしたことを生涯の十字架として独身を貫き、80歳を越えるいまも女子刑務所にピアノを教えに通う。
この二人の出会いと「声の回復」の困難な道程の物語。
主人公がシャイセー!!と叫びまくります。「ちっくしょー!!!」ですね。でも、必然性があります。
抑制されたトーンの演出、不自然なところのない脚本と演技もさることながら、音楽の使い方が絶妙。青春の孤独のシューベルト(D935-2)、悲惨の中になる魂の純潔のモーツァルト、闘う女の希望の翼のワルトシュタインソナタ、もと「天才少女」が来し方を破壊して内なる声で唄ってしまう、シューマンのコンチェルトの1台用編曲版のゲンダイオンガク風パフォーマンス的アレンジ(これが秀逸。コンクールの本選に脱獄して出場しても、警察官と刑務官の見張りがぴったりついているという状況で、どうせまたつかまってしまうのだから、と内部奏法や打楽器奏法をめちゃめちゃ展開しまくるという設定。お客さん大喜び。コンクールの本選ではちゃめちゃやったるで、と夢想する若い演奏家もいるんだろうなあ、と思いました)。
演出が扇情的でないからこそ音楽が効いてきます。もと天才少女役、往年の名演奏家役の当てレコ担当の演奏家がそれぞれ異なっていて、しかも相応に納得できるレベルの演奏。やはり、こうでなくては。日本のシーリアスミュージック映画の作り手はこれを見て猛省すべきです。どんなに面白い筋書きのドラマでも、音楽に説得性がないとだめです。DVD化を期待します。
いろいろ仕掛けについて書きたいことはありますが、《マダム・スザーツカ》と《秋のソナタ》をもう一度見てから書きたいと思います。
プログラム冊子はもっとおもしろくできるはず。
若者の人気者をフィーチャーしてますが、彼らの書き物のなんと生ぬるいこと。
主人公にぼこぼこにされちゃうぞ。やっちゃえ。
実はこの映画の隠しテーマは「Beruf」(使命、召命)です。
かみさまに与えられた能力を発揮して世にお返ししなければならない使命がある
という、プロテスタントの倫理観おなじみのテーマです。
それをコミュニストの老先生が主人公に語る場面が実は圧巻。
ああ、ドイツだなあ、エヴァンゲリッシュだなあ、とつくづく思いますが
せめて、そのあたりにふれてくれなければ、ね。
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業務連絡:
物理学者鍵盤弾き歌人S君、これをご覧のようでしたら一度ご連絡ください。
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