□みなさまこんにちは。脳内亡命詩人(甘味好き)なかにしけふこです。目下輸出用作品各種鋭意製作中です。ときどきボートを漕ぐように舟歌練習しています。オンタリオ湖…
日本語がよめる世界のドミトリー・レフコヴィッチ(Dmitri Levkovich、以下、れふちゃん)ファンのみなさま、お待たせしました。いざ参りましょう。この話題、ほんとは英語でも書いた方がいいんだろうな。
□まず、われわれのれふちゃんのお父上、作曲家のAlexander Levkovich氏のウェブサイト。
http://www.geocities.com/alexlevkovich/main.html
センスのいいウェブサイトです。トロント在住のウクライナ系の作曲家で、かなりの実力者です。シルヴェストロフの弟子で、ヴェーベルン、リゲティ、シュニトケの影響をうけたひとです。ロジェストヴェンスキイやエッサ・ペッカ・サラステからの委嘱作品もあるそうです。
なにしろ、声楽曲の詩の選択のセンスが素敵。ナボコフ(←すきだすきだだいすきだ)とブロツキ(←かなりすきだ)の詩に作曲だなんて、ああ、もう、詩人としては、どきどきします。うれしくなります。そういえばCBCトロントの若手音楽家紹介番組のインタビュー・クリップでも、れふちゃん、「ロシアにはすばらしい文学的遺産がありますので、家ではロシア語を話しています」と答えていましたっけ。
…スキナ シジンヲ オシエテクダサイ
アレクサンダー氏の作品のクリップ、いくつか聴けます。美しいです。
向日性のECM系といった感じでしょうか。ギヤ・カンチェリやペーテリス・ヴァスクスやアルヴォ・ペルトの作品からお涙頂戴要素をぬきとり、アルフレッド・シュニトケのある種の作品を見通しよくしたような感じ、というのでしょうか。
この父にして、あのむすこあり、という印象をもちました。
ちなみに、プロフィルの頁のさいごのほうに、むすこさんのはなしもでてきます。
むすこさんのウェブサイトも出来ないだろうか。
我々はもっとれふちゃんを聴きたいです。そう、彼の作品も。
レトロスペクティヴだけではなくって前に進みたいのです。
□さて、そのれふちゃんでありますが、コンクール優等生弾きを好む向きの多い日本語のネット音楽日記上ではなんだかずいぶんな言われようです。
カナダのぱつきんやろう、雑とか、荒いとか、ひいてる顔がえろいとかお書きの人の観戦記、拝読いたしましたが、国内在住海外在住にかかわらず、こぞってみなさん、こじんまりとお行儀のよい、しかも型に嵌めた表現でピアノの力を矯めて勝ちにゆく、東洋系コンクール優等生弾きをお好みなのが興味深いです。なんだか日本のピアノの世界も、どこか日本の伝統芸能の世界みたいなところがあるような気がします。
東洋系コンクール優等生弾きが盆栽なら、れふちゃんはたのしげに枝をすいすいのばして歩く樹木でしょう。けやきかなにかの類ではないかしら。
詩はやはり歩く樹木でありたい(野村喜和夫氏もむかーしこんなことをおっしゃっていたような気がします)。れふちゃんの演奏については、もう、ひとことでずばり申し上げましょう。向日性の、詩的なピアノだったと思います。ボート漕ぎが趣味のものとしては、あのボートを漕ぐ身体そのものの《舟歌》には、深い共感を覚えました。
一月たっても、あれだけ強烈な印象がのこっています。なにより楽しそうに弾いているのが良い。
みずからの青春を葬るかのような2番ソナタ、あの苦悶の表情には胸をえぐられるようでした。CBCウェブサイトのミュージック・クリップで聴けるプロコフィエフの頭の回転の速い品の良い悪ガキ風の表情もなかなかです。やっぱりいろいろ聴いてみたいと思わせるものがあります。
コンクール本部のプレスリリースや、ポーTVの映像への現れ方も興味深かった。最初は「うわー予備予選から写真があるう、1次予選のときの写真がひとりで多い!たのしそうに弾いてるしどれもいい写真、ラヴリー!」とか言ってたのですが、よくよく考えると、あの苛酷な状況のなかで、あくまでも涼しげでにこやかなれふちゃんの存在感は、それだけで図幅をあかるくするようでした。出番をひかえた闘争的コンクール弾きのひょくちゃんと「さあ次がんばれよ」みたいな感じで握手してる写真とか、本選に進めないことがわかってしまったのに、えらいさんふうの人とさわやかに握手してるポーTVの2次予選結果発表映像とか。ふんわりとセミファイナリストのディプロマをもらってる写真とか。あれはまるで「コンクールの天使」ではないか。Gazeta編集部や、ポーTVの編集サイドのひそかな主張を感じます。このようなひとがいた、ということを、わたし(たち)は覚えておきたい、そう思わせる映像ばかりなのが、とても興味深いものがありました。存在そのものが詩のようです。はげしく、わたくしの心をゆさぶります。
一次予選の演奏後に、楽屋に押しかける女子のみなさんにも晴れ晴れとにこやかにサインをしている数葉も印象的でした。私もパデレフスキ版の舟歌の楽譜にぜひ一筆お願いしたいものです。
読者諸兄姉のなかに、彼の演奏情報をご存じのかたありましたら、ぜひこちらまでご一報ください。
だれかれふちゃんをしらないか。