デセイ姐さんの腹筋
ごぶさたしております。
なかけふです。
なんと3ヶ月ぶりの更新です。
日本に帰って来るなりお悩み相談の嵐でもみくちゃになりましたが、なんとか一応生きています。
詩集の最終稿を書肆山田に送りました。
来年の前半のどこかで出ると思います。
これで論文に集中できます。
短歌は最近とても詠める状況にありません。
とにかく散文に頭を切り換える必要があります。
リコーダーを入手しました。ヘンデルのリコーダーソナタとブランデンブルク4番のリコーダーパートを練習しています(初見でヨユーなのにおどろいた)。来年春には弟子入りを計画中です。トラヴェルソとどちらにしようか迷いましたが、実はリコーダー奥が深いです。ヴォイス・フルートもほしいな。
あと、ラヴリー電子楽器「ケロミン」(http://www.keromin.com)に興味津々です。楽器フェアに行ってケロミン試奏してきました。なにしろ品のある顔でしかもかわいいし、楽器としてもいろいろ応用が効きそうです。朗読会に連れて行って演奏したらどんなに面白いでしょう。百万が一「歴程」のお仲間になるようなことがあったら、ケロミンを連れて行って「草野心平先生の霊に捧げます。けるるんくっく」(まず、丸めて「冬眠」をさせる)とかやってみたいものです。5万円は高いと思いましたが、他の楽器のお値段を考えてみれば、5万円で相当楽しめるんだから、価値は十二分にあると思います。懐如意になったらぜひほしいです。
◆
ところで、ナタリー・デセイのオペラアリア・リサイタル初日行ってきました(東京オペラシティ武満メモリアルホール、11月15日)。
席は1階stallの前方まんなかへん。
はずかしながら今回初デセイです。
ピアノと古楽の聞き手の書いてることですから、なにぶんにもご容赦くだされ。
まずびっくり。
東フィルがうまくなった!
いつのまにあんなにオペラのうまいオケになったんだろう
って、ピットの中に入っている部隊もいるんですから
そりゃそうですよね。
海外有名歌劇場オケと比べるのは酷ですが、少なくとも楽しそうな演奏が出てくるようになっただけでも、10年前のなにやってもいまひとつ覇気に欠けた東フィルとは隔世の感です。
やれニュアンスに欠けるだの、やれ歌をじゃまするなだの、細かいことをいったらきりがないのかもしれませんが。
指揮者はエヴェリーノ・ピド。姐さん主演で「ルチア」の全曲録音を作った人です。
もうひたすらノリノリでした。
中学の吹奏楽コンクールで上手い学校がよく演奏する
《シチリア島の夕べの祈り》序曲
なるほど、そういう曲だったか。
これも、オペラを聞き慣れた人にはいろいろあるのだと思いますが
さすがの貫禄の大人の演奏でした。
デセイ姐さん、そりゃもうすばらしかったです。
豊満な声をイタリアオペラに期待する人には
ものたりないのかもしれませんが
声が実に自然です。
ばりばり倍音が客席に伝わります。
(席のせいもあるかもしれませんが)
えっ、姐さんあれで不調なのか。
すごいなあ、職人だなあ。
それから、役柄がちゃんと生活して生きている感じなのです。
19世紀のオペラなんて大仰で色恋沙汰ばっかりでやだわ、
なんて思ってましたがところがどっこい。
デセイ姐さんにかかると、ルチアもすみれちゃんも一人の生身の人間なのです。
感情のゆきつくところに変なもってまわった毒々しさがないのです。
スコットランドのヒースのお屋敷で裏切られた愛に気が触れるルチアねえちゃんでも
パリの肺病やみの西洋おいらん・すみれちゃんでも
等身大の息づかいと感情が伝わります。
その人がちゃんとご飯食べて生きている感じ、とでも申し上げましょうか。
ルチアもすみれちゃんもひとりの人間なのだ、と実感できました。
歌の向こうに情景が見えます。
姐さん一人オペラでしたね。豊満でない声がかえって役柄のリアリティを増すのではないかという印象を受けました。
オペラ好きの人からすれば、ヴィオレッタが軽いとか、いろいろあるようなのですが
東京ではあの暴力的な値段と重苦しい演目に負けてオペラを見に行かない者としては
いや、あれは充分ありだよなあ
19世紀の肺病やみのおめかけさんが重々しい声で歌う方が
(しかも死にかけの時にまで元気いっぱいに歌ったり…)
かえってリアリティないよなあとか
様式美(?)をまるむししたようなことを考えてしまうのでした。
きっと姐さんならば死にかけのすみれちゃんもちゃんと死にかけでしょう。
しかも姐さんの腹筋はドレスの上からはっきりわかるほどすごかった。
ちなみにドレスは前半が萌葱色、後半がポピーレッドの、胸回りにきらきらスパンコールやラインストーンの入った素敵なパターンのノースリーヴでした。
鍛えてます。
あの演技と歌声はあのすばらしい腹筋に支えられているのですね。
ワーク・アウト・プログラムが知りたいです。
ルチア狂乱の場で共演していたガラス楽器制作・演奏家のサッシャ・レッケルトの演奏がまた良かった(もくっとした可愛いドイツのお兄ちゃんでした)。
グラス・ハーモニカといえば、あのあやすいメスメルはかせが催眠術の入眠導入に使っていた楽器ですが、今回はレッケルトが復刻したヴェロフォンを使用。明和電機の「魚器」に似た図体の楽器ではなくて、金色の枠に縦にガラスのパイプが並んでいます。手で鳴らす巨大なガラス製のパンフルートみたいなものに見えました。
音色は透明でちょっと茫洋としていて、どこかおまぬけでユーモラスな感じ。
テルミンやオンド・マルトノにアンデス(鍵盤笛)をたしてアコースティックにしたような音です。
(しろうとの演奏会でルチア狂乱の場を無理無理やるなら、アンデスが伴奏楽器に使えるかなあ、などと妄想)
おフランス怪奇人造美女物語のBGM(アダリーが起き上がるところ)に使えるんではないでしょうか。リアルタイムのネオ・ゴシックは日本人の「異端」趣味の人が思っているよりも、きっとはるかにもっとユーモラスなんだろうとふと思いました。
ヴェロフォン、高いだろうけど一回さわってみたいですね。
レッケルトのユニットのウェブサイトはこちら。素敵。
楽器のデザインもいかしてます。
http://www.sinfonia-di-vetro.de/
あの音色から考えると、エドワード君の亡霊、結構可愛いんじゃないでしょうか。
すみれちゃんの「花から花へ」でアルフレードのパートを弾いていた東フィルのチェロのトップのお兄ちゃんもノリノリで旨かった。
アンコールでムゼッタのワルツが聴けたし、もう幸せいっぱいです。
「私は自由よ」のすみれちゃんの歌も
ムゼッタちゃんも
姐さんがレパートリーにしている《アルチーナ》のモルガーナの役どころを思い出させるものが。笑
YouTubeをさがすと「いけないメイドさん」のモルガーナの画像が出てきて非常に面白いです。
自由、平等、博愛。
おふらんすだなー。
姐さん、エリュアールの詩による歌曲(プーランク)とか歌ったら
ピッタリだとおもうんですが…。
プログラム冊子に転載されていたLe Monde de la Musiqueのインタビュー記事・メットでの《ルチア》評判記の語録も印象的でした。語録ちょっと抜粋します。
--型にはまったルチアはもう十分。生きている作品が歌いたい。
--すでに経験しているもの以外を求めない観客の希望に応じる必要はない。必要なのは人々を驚かせ、新しいものを差し出すこと。見慣れたものや、凡庸で時代遅れの作品を人に勧めたくはない。
--ずっと若いときに女優になりたくて、舞台を通してオペラの世界を知りました。でもオペラが私を選んだのであって、私がオペラを選んだのではないのです。自分には声があることに気づき、たぶん単に女優としてよりも、歌う声を使った方が舞台に上がるのが簡単だろうと思ったわけです。
…姐さん、ついていきます。
こんどはぜひオペラ本体で姐さんを見たいですね。
◆
次はレッド・プリーストの笛吹海賊を見に行ってきます。またご報告します。
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